親族外承継における所有と経営の分離について
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中小企業の事業承継においては、近年、従業員や主力販売先などから後継経営者を選定して事業を承継する親族外承継が注目されています。その背景には、中小企業を取り巻く環境が厳しさを増す中、親族であるか否かにこだわらず、経営能力に長けた後継経営者を広く求める企業が増えていることがあげられます。このような承継者は、新たな視点から企業の事業基盤を捉え直し、事業承継をむしろ契機として経営革新を遂行しているのです。
親族外承継によって承継者が経営革新を遂行した事例では、@承継者が創業者一族から株式を買い取るケースと、A株式のほとんどが依然として創業者一族に保有され「所有と経営の分離」がなされているケースの両方が存在します。
このように親族外承継において所有と経営の状況に違いが見られるのは、親族外の承継者と創業者一族との関係が大きく影響しているためであると考えられます。所有と経営が分離した企業においては、承継者と創業者一族との間に信頼関係が構築されている中で比較的円滑に事業承継が進められ、現経営者に経営が全面的に委ねられるケースが多いのです。このように創業者一族との間に信頼関係が構築されている場合は、所有と経営が分離した親族外承継の企業でも、承継者は経営革新を遂行できるのです。一方で所有と経営が一致する場合は、親族内での承継がうまくいかず創業者一族による経営が行き詰まりを見せている中、承継者が創業者一族の株式を買い取るケースが典型例としてあげられます。
では、所有と経営が分離した親族外承継において、親族外の承継者と創業者一族との間に信頼関係が構築されるにはどのような取組みが求められるのでしょうか。自動車部品製造業者A社の事例をみていきましょう。
A社の現社長は、主力販売先である大手電機メーカーに30年間勤務した後、A社の関連会社に転出し、4年間その関連会社の常務取締役として、その後2年間は社長として勤務しました。
関連会社に勤務していた頃から、A社の創業者よりA社の社長職を継いでほしいとの要請がありましたが、当時は創業者の長男が社長職に就いており、新規事業である福祉機器の展開に行き詰まっていた時期でした。
そこで現社長は、すぐにA社の社長に就任するのではなく、1 年間副社長として勤務し、A社の実態を充分に把握したうえで社長に就任しました。
社長就任後、事業性に劣る福祉機器からの撤退と原点回帰を従業員に宣言し、主力販売先からの自動車部品の試作に関する受注拡大や新規取引先の開拓に取り組むなど事業の立て直しを推進しました。
A社の主な株主は、現社長就任後も創業者一族のままでしたが、創業者一族は現社長の経営手腕を評価し、経営に一切口を出さずに現社長を信頼して経営を任せました。その背景には、現社長がA社の社長に就任する前の6年間はA社の関連会社に勤務し、A社入社後の1年間は副社長として勤務することで、承継までに充分な準備期間を確保していたことがあるのです。
記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立