経営に役立つ時価会計について
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時価会計は、いつの時代も変わらぬ会計の大きなテーマです。IFRS(国際会計基準)でも時価会計が一層強化されるようになっており、その是非が盛んに論じられています。ここでは小難しい会計理論ではなく、実践に沿った「経営にとっての時価会計」ということを考えてみましょう。
取得価額(簿価)100の上場株式の時価が50だとします(配当等の収入はありません)。時価で評価すれば50の評価損が生じますが、時価主義ではなく取得原価主義であれば、決算書に評価損は計上されません。
時価会計であれば、所有していても50の評価損を計上しなくてはなりませんから、いっそのこと株式を売却して50の売却損を計上しようと発想することができます。しかし、取得原価主義の下では、「原価評価なのだから、わざわざ売却して売却損を出す必要はなく、相場が回復するまでこの株式を持ち続けよう」と考えるかもしれません。しかし、この考え方は誤っています。なぜなら、企業行動の目的は将来キャッシュフローの最大化であり、企業は将来キャッシュフローを最大化すべく事業活動を行わなければならないからです。さきほどの例における株式所有の継続というのは、将来キャッシュフローとは何の関係もない、会計上の損得から導き出された行動パターンに他なりません。
仮に、設備投資に必要な資金が50としましょう。資金調達にあたっての選択肢は現在所有している上場株式を売却して50のキャッシュを手に入れるか、銀行から50借り入れるか(借入金利は4%とします)の二つであるとします(税金は考慮しません)。
株式の売却では50の株式売却損が発生し、借入金の借入では2(50×4%)の支払利息が発生します(支払利息は借入期間中ずっと存続します)。この両者の負担を経営としてどのように判断するかです。
会計上の負担は、借入期間にもよりますが、支払利息より売却損の方が大きくなりそうです。しかし、経営として考えなければならないのはキャッシュフロー負担です。支払利息はキャッシュアウトを伴う費用ですので、「将来キャッシュフローの最大化」という観点からは株式の売却により資金調達をするのが正解になります。
株式保有が正当化されるのは、今後所有する株式が値上がりして、現在売却するより将来売却するほうが多額のキャッシュフローが得られると確実に予想できる場合だけです。
ここで述べた事情は、新たな資金調達の場合だけではなく、既存の借入金を抱えている場合も同様です。大切なのは、会計上の損得ではなく、将来キャッシュフローの大小です。そのためには、たとえ会計基準が原価評価を許容していても、経営として資産の時価は常に把握しておかなければなりません。その意味で、適切な企業行動のためには、会計も原価評価より時価評価のほうが相応しいといえます。
記事提供者:(株)税務研究会 税研情報センター
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立