素朴な疑問と複雑な税制の訂正について
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素朴な疑問と複雑な税制(訂正版)
「生命保険金を一時金で受け取った場合には所得税は課税されないのに、年金払いで受け取った場合に課税されるのはおかしい・・・」
普通の主婦から相続税申告を依頼された税理士が、税制の矛盾を感じて主婦に指摘し、同感した主婦が提訴、一審で勝訴、二審で敗訴となりましたが、このたび最高裁において逆転勝訴し「所得税を違法な二重課税」と認定させました。これにより生保業界はもとより国税当局においても大きな混乱が生じています。
今回の二重課税の構造を簡単に説明しておきましょう。夫の相続税申告時に、生命保険金の一時金と以後10年間に渡り年金形式で分割支給される金額(年金受給権)を合わせて申告します。この段階では相続税法上は問題ありません。争点は年金受給権に相続税が課税されているにもかかわらず、以降分割受給額のうち元金部分に所得税(雑所得)を課税することが相続税との二重課税になっているのでは?という問題です。
所得税法(法9条1項16号)はこの二重課税を防ぐために、相続財産には課税しないと規定しています。これに基づき、生命保険金を全額一括受領した場合は相続税だけを課税し所得税は課税されません。しかし国税当局は「年金方式で毎年受け取る保険金は相続財産とみなさない。よって所得税は課税する。」という解釈をしているようです。
国税当局の解釈の仕方は、一般的には理解しづらい理屈です。最高裁はこの解釈にノーと言ったわけですから、納税者の目線に則った常識的な判断といえるでしょう。
この判決は、課税のわかりにくさや不均衡に警鐘をならすと共に、課税のあり方を問うています。今後の還付方法をめぐり国や国税当局は対応を迫られています。財務相は「訴訟対象となった年金型の生命保険で、遺族の請求を前提として、過大に徴収した所得税を還付」する方針を示し、合わせて還付期限の5年を超える分の救済や、その他の類似保険商品も対象にする方針を表明しました。
冒頭の税理士の指摘は実に素朴な疑問であり、なるほどと理解できます。この主婦はもちろん税のプロではありません。それを補佐人として支援した税理士のサポートがあったからこそ勝訴したことは言うまでもありません。
とかく税法は複雑でわかりづらいものです。法で規定されていてもそれを補完する諸法令や通達が脇を固め、一般人には難解でしょう。そんな中「おかしい」とこの主婦と税理士が主張し続けたことには大きな意義があります。
※ 9月10日掲載記事内容「相続税申告を受託した税理士も法律に則って申告処理をしていましたが、主婦からの疑問に当初は戸惑った」という記載は、事実誤認に基づく誤った記載です。お詫びと共に全文を訂正させていただきます。(9月28日付)
記事提供者:アタックス 岡田 昌樹
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立