長引く円高、為替リスクのヘッジについて
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長引く円高、為替リスクのヘッジ
日本経済は、2年前のリーマンショックから徐々に回復傾向にあることが報じられてきましたが、猛暑による特需やエコカーなどの政策効果が薄まる中、最近は景気回復の勢いが鈍ってきているようです。
長引く円高による輸出企業の先行き不透明感や、円高であるにもかかわらず株安が進む状況に、今後の日本経済の成長を不安視する声が囁かれています。
特に円高は、輸出企業にとって海外での販売力低下といった直接的にマイナスの影響を受けることになります。一方、輸入企業にとっては、国内の景気後退に伴う販売不振の影響を受けることもありますが、海外からの商品を安く調達できるため、直接的にプラスの影響を享受します。いずれにせよ、為替の変動は企業業績に多大な影響をもたらすことになり、為替リスクのヘッジが重要な経営課題となります。
しかしながら、円高が長期化する中、輸入企業でも円高の煽りを受けて業績が低迷している例が見受けられます。為替の変動リスクをヘッジする目的で、通貨オプションを取り組んでいる企業です。通貨オプションとは、特定の通貨間を予め契約した決済日・価格(1ドル=105円など)で取引できる権利を売買するもので、輸入企業の場合、円安になれば権利行使を行うことにより、その時点の外為相場よりも良い相場で外貨を調達することができ、また円高になれば円高のメリットは享受できませんが、契約時の義務履行価格で取引することにより、為替リスクをヘッジするものです。したがって一般的には通貨オプション取引が業績悪化の直接的な要因となるものではありません。
通貨オプション取引は、一般的には業績悪化の直接的な要因となるものではありません。しかし、通貨オプション契約の中には、契約した決済日において円高・円安のどちらに振れているかによって、取引金額が異なるケースがあります。
たとえば「円安に振れている場合は100万ドルを取引するが、円高の場合はその倍の200万ドルを取引する」といった契約です。輸入取引自体が100万ドルあるとすると、円安になった場合はすべての輸入取引について円安リスクをヘッジすることになりますが、円高になった場合は、そもそも輸入取引自体が100万ドルしかないため、必要以上の外貨を義務履行価格で購入することになり、差し引き100万ドルは外貨預金として手元に残存することになります。中堅・中小企業の場合、資金に余裕がないことが多く、その外貨を円に転換せざるを得ないとなると、当初契約時の取引価格(1ドル=105円)とその時の市場価格(1ドル=85円)とすれば、その差額(1ドル=20円)に100万ドルを掛けた金額が為替差損として収益を圧迫することになるのです。
このように円高・円安で取引金額が異なる契約は、為替リスクをヘッジする目的以外に投機的な意味合いが強いものとなり、問題があります。輸出入を行う企業にとって為替リスクを回避することは重要な経営課題ですが、将来の為替変動については予測することは不可能なため、本来の目的を見誤らずリスクに備える必要があるのです。
記事提供者:アタックス 坂井 啓宏
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立