財務諸表の比較性
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財務諸表の比較性、確保できていますか?
会計処理方法の違いにより石油元売り2社の中間連結業績の明暗が分かれている。会計処理方法の違いによる決算への影響は、国際的な会計基準の統合にも関わる話である
会計基準の国際的なコンバージェンス(収斂)に係る議論の発端は、EU市場に外国企業が上場する場合、国際会計基準もしくはそれと同等の会計基準の適用が義務付けられたことによる。これにより、将来的に日本の会計基準の孤立、ひいては日本企業及び日本市場の競争力の喪失が懸念されるため、日本の会計基準も国際的なコンバージェンスが求められているが、その中で後入先出法の取扱いについても議論されている。
後入先出法とは、棚卸資産の期末評価における評価方法の一つで、実際のものの流れと一致しないが、物価上昇時に棚卸資産の含み益の計上を抑制できるメリットがある。棚卸資産の評価方法は、継続適用を要件に複数の方法からの選択が認められており、その結果、取引事実は同様でも開示内容が異なる場合があり、企業間比較を行なう上で注意を要する。また、国際会計基準ではこの後入先出法の適用が認められていないので、後入先出法が廃止された場合には、この方法を採用している企業にとっては過去との比較性が損なわれる可能性がでてくる。棚卸資産の評価方法の変更により、企業間の比較性は確保されたとしても、企業の期間比較が犠牲となるかもしれない。
会計基準の国際的なコンバージェンスは、国際市場で上場する日本企業にとって必要最低限度の「資格」が付与されることを意味している。特にEU市場に上場している日本企業にとっては対応の緊急性が高い。このコンバージェンスが急がれなければ、日本企業は国際的資金調達力を失いかねないからだ
一方で、日本の証券市場も国際競争力を増強するための取り組みを始めている。その一例が、東証が来年初めに開設予定のプロの投資家向けの専用市場だ。
このプロ向け市場では、決算開示義務を年4回から年2回以上と緩和し、英語での開示や国際会計基準、米国会計基準の適用も認める方針である。ただし、この市場は、プロの投資家のスキルの高さが、開示される財務諸表の比較可能性を担保するという考えが前提になっている。
EU市場は、同一市場において異なる会計基準の存在を否定し参入する企業に対してハードルを上げてきている。これに対して、日本市場(プロの投資家向けに限定)は異なる会計基準の存在を認めることにより外国企業の参入のハードルを下げようとしているのだ。いずれの市場に競争力があるのか、投資家にとっていずれの市場が魅力的で信頼性が高いのか、ルールの画一化がいいのか、自由度の高さがいいのか、投資家はそれぞれの市場からもたらされる投資情報の有用性を判断していくことになろう。
このような中、あるコンサルタントが日本の中堅・中小企業の対応に頭を抱えていた。適正な会計処理についてアドバイスした際、大多数の企業の反応は「強制されるまでは訂正しない」というものであり、その理由の大半は「過去の決算書と比較できなくなるため」ということなのだそうだ。
多くの中小企業にとって会計基準は強制されるものではない。しかしながら、気付いた時に適正な会計処理を採用しないと、同業他社との企業間比較も出来ず、自社の事業力を適時適切にとらえることも難しいであろう。思い切って過去の決算書を現在時点の適正処理に置き換えるくらいの意気込みなくして、真の競争力は手に入らないのではなかろうか。
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立