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配当政策と株主価値

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配当政策が株主価値を減少させるか!?

好調だった経済を背景に増配によって株主価値(≒企業価値)を増加させてきた米企業も、将来収益の不透明さから配当を抑制する動きが出てきた。一般的には減配等の動きが企業成長の減速を感じさせ、株主価値の減少をイメージさせるのだが、そもそも配当政策が株主価値を左右させるのだろうか。

配当政策とは、企業活動で得られたキャッシュフローのうち、どれぐらいを事業に再投資し、また株主に還元すべきか、そしてどのような還元方法を選択するかを長期的な視点に立って意思決定することである。

配当政策の理論として、「シグナリング理論」や「フリーキャッシュフロー理論」があるが、それぞれ異なるメカニズムで情報の非対称性(経営者と投資家との間の情報格差)が増配による株価上昇を通じた株主価値の増加を説明している。

「シグナリング理論」では、増配が株主価値の増加につながると考える。企業が増配したとき、将来的に引き上げた配当を維持するだけの収益を上げられなければ減配せざるを得ない。そのため、収益拡大について強い確信がなければ経営者は増配を選択しない。したがって、増配(減配)は投資家から「将来の収益拡大について強い確信あり(なし)」という経営者のシグナルと受け止められ、株価上昇(下落)の要因となる。

「フリーキャッシュフロー理論」も同様に増配が株主価値を増加させると説明する。本来、経営者は株主の代理人として、株主価値の最大化を求められているが、投資家は経営者ほど企業内部の情報を知ることはできない。このため、経営者が無駄な投資を行ったり、せっかくの投資機会を見逃してしまうなど、経営者の裁量の中で株主価値を毀損させてしまったとしても、投資家はこれを知ることはできない。

この価値の毀損分をエージェンシーコストというが、潤沢な資金を抱えた企業ほど経営者の裁量が大きいため、エージェンシーコストは大きくなる。この理論は、増配(減配)によってフリーキャッシュフローが減少(増加)すれば、エージェンシーコストが減少(増加)し株主価値が増加(減少)するとしている。

いずれの理論も実証研究などから、増配が株主価値の増加に結びつくことが分析されているが、一方で増配等の株主還元策そのものだけで株主価値が高まるものではないことも分析されており注意が必要である。

実証研究では、将来の展望も無くむやみに株主還元だけを考慮して増配しても、実質的な株式価値は変わらないため、長期的には株価の上昇が見込めないことや、コーポレートガバナンスが確立されている企業ほどエージェンシーコストが小さくなっていることが実証され、結果として株式価値を高めることになるということが明らかにされている。

配当政策においては、将来の投資計画や資金調達計画を考慮したうえで適切に政策を策定し、それを投資家に対して明確に伝達して情報の非対称性を解消することが重要である。また、配当政策に限らず、投資家への適切な情報開示やコーポレートガバナンス等を確立させることが、株価のディスカウント要因となっていたエージェンシーコストそのものを減少させ、株主価値の増加につながる。

今後の経済情勢を鑑みるに、企業としては配当抑制に向かわざるを得ないと予想されるが、配当抑制政策が単純に株主価値を減少させる訳ではなく、米企業にとどまらず日本企業においても、こうした企業努力によって株主価値が左右されるのである。

記事提供者:アタックス 伊藤 彰夫

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