日本版ESOP
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日本版ESOP!?の効用を考える
米国の制度を参考にした従業員持ち株会(日本版ESOP)が上場会社の間で広がっている。もともとESOP(イソップ)は、米国において一般的に普及する自社株を使った退職給付制度であり、日本版ESOPとは少しニュアンスを異にする。
米国では退職給付制度として従業員の資産形成を主目的とするものだが、日本版ESOPでは退職給付制度というよりも、むしろ従業員持ち株会に拡充した目的や機能を与えるものとなっている。
従業員持ち株会自体は、民法上の組合であり法人格が持てないため借入金の主体となれない。また、企業が従業員持ち株会に対して拠出するいわゆる「奨励金」もあからさまに多額に出すと会社法の特定株主への利益供与禁止規定(会社法120@、A)に抵触する。
そこで、信託受託者としてESOPを設立することで、金融機関等からまとまった借入を行なうことができ、それを原資として企業自体が保有する金庫株や市場に流通している株式を大量に購入し、それを従業員持ち株会に徐々に売却していくことが可能となるのだ。
もともと、上場会社の従業員持ち株会の導入目的としては、@従業員の貯蓄奨励、財産形成の援助、A経営への意識を高め、生産性向上へ寄与、B友好的な安定株主層の確保、などがあるのだが、今回の日本版ESOPを導入する上場会社の狙いは、従業員の自社株値上がり益の享受や計画的にまとめて安定株主を確保することなど、従来の従業員持ち株会の目的を一歩推し進めたものとなっている。
株式を保有しない従業員に対して「株価の最大化を実現すべきだ」と言ってみたところで説得力はないが、彼らに株主としての立場を与えることで、株価に影響を及ぼす業績やキャッシュフローに関心を向けさせ、それらの改善に対する意欲の向上を図ることは利に適うものといえる。
また、日本版ESOPを導入して、従業員という友好的な安定株主を計画的にまとめて確保することが重視されている背景には、現状の買収防衛策が、往々にして、海外の投資ファンドによる買収攻勢 → それに対する新株予約権や第三者割当増資などの買収防衛策導入 → 1株当たり価値下落に対する批判や違法性についての市場からの指摘、といったような迷走を呈するということがある
これら一連の買収防衛策に対しては、外国人投資家などの日本株敬遠の一因ともされており、市場関係者の間では否定的な意見も多い。わが国で従来から機能してきた株式の持ち合いが崩れ、企業に対する「株主としての権利」を当然と考える外国人投資家や年金基金に代表される機関投資家などの株主が増加してきた中で株主重視は大きな潮流だ。
日本版ESOPは、株主保護や第三者割当増資規制論から離れたところで企業に対してより好意的な従業員を株主として創出する一種の敵対的買収防衛策として機能するが、今後の広がりに注目したい。
記事提供者:アタックス 伊藤 彰夫
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立