買収企業の試練
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買収企業(事業)の本当の試練
みずほ証券系の投資ファンドが400億円規模の新たなファンドを設立する。このファンドは、技術力のある製造業、小売業などを投資対象としているが、MBOによる非公開化にも資金を提供するようである。
MBOとは、企業買収の手法のひとつで、「マネジメント・バイ・アウト(Management Buy-Out)」を省略化した言葉である。その内容は、経営陣が、所属している企業または事業部門を買収して、独立することを指す。
MBOの手続としては、次のような3ステップを用いるケースが多い。
【ステップ1】 経営陣の出資により、新会社を設立する。
【ステップ2】 ファンド、金融機関などが、新会社に資金を融資する。
【ステップ3】 現在、事業を行っている会社の株式を、新会社が、現株主から全て買い取る。
以上のステップにより、「株主(経営陣)→新会社→事業会社」という経営支配関係が成立する。
また、新会社が、ファンド、金融機関などから調達した資金の元本返済や金利支払いは、次の2ステップで実施する。
【ステップ1】
随時に開催する事業会社の株主総会での配当金支払い決議、もしくは、事業会社の定款で取締役会決議により配当金の支払いが出来るようにした場合は取締役会の配当金支払い決議を経て、配当金を新会社に支払う。
【ステップ2】
新会社は、事業会社から受領する配当金により、借入金の元本返済や金利支払いを実施
する。
このスキームでは、個人(経営陣)ではなく新会社が融資を受け、事業会社の株式を買い取るが、その理由の1つとして、税務上の問題がある。個人の受領する受取配当金は、所得税の課税対象となり、税引き後の手取り額が、元本返済の資金となる。しかし、会社が受領する受取配当金には、法人税等の課税がないため(*)、配当金として受領する金銭を、全て、借入金の元本返済・金利支払に充てることができるというメリットがある。
なお、上述のファンドは、年率20%から25%の利回りを目指すようであるが、決して安くない金利の支払いと元本の返済の原資は、実質的に、買収企業(事業会社)からの利益を前提とした受取配当金であるため、買収企業の持続的な利益の計上が怪しくなると、新会社と事業会社の両社の存続に赤信号が点灯することとなる。
また、そもそも事業の継続が目的であったはずのMBOが、途中で、事業会社の株主との交渉ごとに労力を使い果たし、MBOそのものが目的となってしまうケースがある。この場合、株式の買い取り資金=借入金、及び、支払い金利の総額が適正価格か、ということが問題になることが多いようである。
真の試練は、MBO成立後から始まるものであり、経営陣の経営管理能力の真価が問われるのも、MBO成立後からである。このことを肝に銘じ、経営戦略・組織体制・事業計画などの基本事項を整備・構築することが肝要である。
(*)発行済み株式総数の25%以上を、6ヶ月以上保有している株式から受領する受取配当金は、法人税法の「受取配当金の益金不算入」という制度により、法人税等が課税されない。
記事提供者:アタックス 川野 勝彦
千代田区神田の税理士佐藤修治税務会計事務所 会社設立